労務管理情報 / 2026年7月
パート・有期社員の処遇見直しは待ったなし
同一労働同一賃金改正ガイドラインで問われる各種手当・処遇の実態
同一労働同一賃金改正ガイドラインで問われる各種手当・処遇の実態
パートタイマーや契約社員の処遇について「正社員と合わせる必要はないだろう」と判断してきた会社は、今秋に向けて方針の見直しを迫られるかもしれません。改正された同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省)が2026年10月1日から適用され、賞与・退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・福利厚生施設・病気休職・夏季冬季休暇・褒賞の9項目について、具体的なルールが追加・整備されました。自社の制度が新基準に照らして問題ないか、今から確認が必要です。
改正に至った背景——最高裁判決がガイドラインを動かした
同一労働同一賃金のルールが施行されてから5年が経過しました。この間、正社員と非正規社員の待遇格差をめぐって複数の最高裁判決が出され、「どこまでの格差が許容されるのか」という実務上の判断基準が次第に明確になってきました。今回の改正ガイドラインは、こうした司法判断の蓄積を踏まえ、内容を大幅に充実させたものです。
改正前のガイドラインは、手当ごとの考え方を示してはいましたが、退職手当・住宅手当・夏季冬季休暇・家族手当・無事故手当・褒賞については具体的な記載がありませんでした。これらが今回新規追加(または大幅に記載が充実)され、企業が自社制度を点検するうえでの判断基準がより具体的になりました。
今回改正された9つの項目
今回の改正でガイドラインに追加・充実された項目は全部で9つです。「新規追加」はこれまでガイドラインに記載がなかった項目、「記載の充実」は既存項目の内容が最高裁判決等を踏まえて大幅に更新されたものです。詳細は厚生労働省の公式ページでも確認できます。
| 項目 | 改正区分 |
|---|---|
| ① 賞与 | 記載の充実 |
| ② 退職手当 | 新規追加 |
| ③ 無事故手当 | 新規追加 |
| ④ 家族手当 | 新規追加 |
| ⑤ 住宅手当 | 新規追加 |
| ⑥ 福利厚生施設 | 記載の充実 |
| ⑦ 病気休職 | 記載の充実 |
| ⑧ 夏季冬季休暇 | 新規追加 |
| ⑨ 褒賞 | 新規追加 |
出典:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン(令和7年改正)」をもとに作成
以下では、改正された9項目それぞれの内容と、実務上の確認ポイントを整理します。
9項目それぞれの内容と実務上の確認ポイント
① 賞与(記載の充実)
賞与には労務の対価の後払いや功労報償としての性格が含まれます。その目的がパートタイマー・有期雇用労働者にも当てはまる場合、職務内容等の違いに応じた均衡のとれた支給をしないことは不合理と認められる可能性があります。自社の賞与の支給目的と支給要件を確認しましょう。
② 退職手当(新規追加)
退職手当も賞与と同様に、後払い賃金・功労報償としての目的を持ちます。その目的がパートタイマー・有期雇用労働者にも妥当するにもかかわらず、均衡のとれた支給をしない場合は不合理とされる可能性があります。「パートに退職金は不要」という考え方が今後は通用しなくなるケースがあり得ます。退職手当の支給対象と算定方法を改めて確認しましょう。
③ 無事故手当(新規追加)
正社員と業務内容が同一のパートタイマー・有期雇用労働者には、正社員と同一の無事故手当を支給しなければなりません。「正社員と同じ業務」に就いているパート・契約社員がいる場合、手当の支給状況を確認する必要があります。
④ 家族手当(新規追加)
労働契約の更新を繰り返している等、継続的な勤務が見込まれるパートタイマー・有期雇用労働者には、正社員と同一の家族手当を支給しなければなりません。長期にわたって勤務しているパート社員への家族手当の取り扱いを見直す必要があります。
⑤ 住宅手当(新規追加)
住宅手当が「転居を伴う配置の変更(転勤)の有無に応じて支給されるもの」である場合、正社員と同様に転居を伴う配置変更があるパートタイマー・有期雇用労働者にも、正社員と同一の住宅手当を支給しなければなりません。住宅手当の名目と実態が一致しているか、また転居を命じる可能性のある契約社員等への扱いを確認しましょう。
⑥ 福利厚生施設(記載の充実)
食堂・保育所・保養施設・体育館・図書館・駐車場等の福利厚生施設について、利用料金・割引率等の利用条件における不合理な待遇差を設けてはなりません。社員・パートで施設利用の取り扱いが異なる場合はその合理的理由を整理しましょう。
⑦ 病気休職(記載の充実)
正社員に病気休職中の給与保障を行っている場合、継続的な勤務が見込まれるパートタイマー・有期雇用労働者にも、同一の給与保障が求められます。就業規則の休職規定にパートタイマー・有期雇用労働者が対象として含まれているかを確認しましょう。
⑧ 夏季冬季休暇(新規追加)
夏季・冬季の特別休暇は、パートタイマー・有期雇用労働者にも正社員と同一の日数・時季で付与しなければなりません。「パートは夏季休暇なし」「日数が少ない」といった取り扱いは問題となり得ます。
⑨ 褒賞(新規追加)
「一定の期間勤続した労働者に付与する」勤続表彰等の褒賞については、正社員と同一の期間勤続したパートタイマー・有期雇用労働者にも同一の褒賞を付与しなければなりません。勤続表彰制度の適用範囲を確認しましょう。
「正社員人材確保論」だけでは不十分——改正の重要な変化点
過去の最高裁判決では、「正社員の人材確保のために処遇に差をつけることは合理的」という「正社員人材確保論」が待遇差を正当化する根拠として認められたケースがありました。しかし今回の改正ガイドラインでは、正社員人材確保論のみをもって待遇差が不合理ではないと当然に認められるものではない、という考え方が明示されました。
つまり「正社員を優遇しないと採用できないから」という理由だけでは、今後は待遇差の正当性を説明しきれない可能性があります。各手当・休暇の「性質・目的」に照らして待遇差を説明できるかどうか、改めて整理することが求められます。
今から始める自社制度の点検ステップ
10月1日の適用まで、現時点で約3か月です。点検にあたっては、まず自社の正社員とパートタイマー・有期雇用労働者の待遇を一覧化し、今回改正があった9項目(賞与・退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・福利厚生施設・病気休職・夏季冬季休暇・褒賞)について格差があるかどうかを洗い出すことが出発点です。
格差がある場合は、その格差が「職務の内容や変更の範囲等の違い」によって説明できるかどうかを確認します。説明ができない格差については、制度の見直しか、待遇差の合理的な根拠の整備が必要になります。対応に迷う場合は、専門家への相談をお勧めします。
ポイントまとめ
改正同一労働同一賃金ガイドラインは2026年10月1日から適用。賞与・退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・福利厚生施設・病気休職・夏季冬季休暇・褒賞の9項目が追加・整備された。
新規追加は6項目(退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・褒賞)、記載が充実されたのは3項目(賞与・福利厚生施設・病気休職)。記載充実の3項目も既存の取扱いが通用しなくなるケースがある点に注意。
各手当・休暇ごとに「支給・付与の目的」と「職務内容等の違い」に照らして待遇差を説明できるかが問われる。
「正社員人材確保論」のみによる正当化は通用しなくなる。各待遇の性質・目的に照らした合理的な説明が必要。
SASより
当事務所の顧問先でも、退職手当や夏季休暇について正社員とパートタイマーで取扱いを分けているケースは少なくありません。今回の改正を機に、改めて処遇の整理をされることをお勧めします。「うちは問題ない」と思っていても、実際に書面に落としてみると説明がつかない部分が出てくることがあります。
SAS社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士 佐藤 創
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