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「ナフサショック」の余波で再注目-通常制度で読み解く「雇用調整助成金」の使い方

SAS助成金通信 2026年(令和8年)6月号
「ナフサショック」の余波で再注目
通常制度で読み解く「雇用調整助成金」の正しい使い方
「受注はあるのに部材が入らない」——そんな状況に直面している中小企業の事業主・ご担当者の方へ。コロナ特例とは異なる“通常制度”のポイントを整理しました。
中東情勢の緊迫化や原油価格の上昇、輸送コストの高止まり、原材料や資材の供給遅延などを背景に、雇用調整助成金への関心が再び高まっています。現場でも「受注はあるのに部材が入らない」「工事はあるのに資材不足で予定どおりに進まない」といった相談が目立ちます。

ただし、ここで最初に確認しておきたいのは、現在の雇用調整助成金は、コロナ禍の特例時の感覚で考えると見誤りやすい制度だということです。
そもそも雇用調整助成金とは?
雇用調整助成金は、景気の変動・産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業・教育訓練・出向)によって労働者の雇用を維持した場合に、その負担の一部を助成する制度です。
ここが誤解されやすいポイント:この助成金は「事業主の損失そのものを埋める制度」ではありません。あくまで解雇を回避しながら雇用を維持するための制度です。この点を外してしまうと、制度の使い方を誤りやすくなります。
まず確認:「事業活動の縮小」に当たるか
最初に確認すべきは「事業活動が縮小しているか」どうかです。通常制度では、最近3か月間の売上高や生産量などの月平均値が、前年同期に比べて10%以上低下していることが必要です。また、雇用保険被保険者数や受け入れている派遣労働者数が大きく増加していないことも要件になります。
供給制約による休業でも使える?
部材の納期遅延で生産ラインを止めた、資材不足で工程を延期した、受注はあるが納期どおりに製造できず操業日数を減らした——こうした事情について、前年同期と直近3か月を比較した売上高・試算表・月次資料・工程表・受発注記録などにより10%以上の落ち込みが確認できれば、検討の余地があります。

反対に、単にコストが上がっただけで通常どおり操業している場合には、「事業活動の縮小」とまでは評価されにくいでしょう。
支給対象となる3つの方法
休業
所定労働日に、労働の意思と能力があるにもかかわらず、全日または所定労働時間内の一定時間、労働させないもの。
教育訓練
雇用を維持しながら知識・技能の習得や向上を図る方法。供給制約の解消後、別事業分野への進出や配置転換にもつながり得る。
出向
一定期間、他の事業所で就労しつつ、出向元への復帰を前提に雇用を維持する方法。
どれを選ぶにしても、助成金ありきで決めるのではなく、まず事業実態に照らしてどの方法が最も合理的かを考えることが大切です。
【重要】計画届の事前届出が必須です
休業等を行う場合は、必要書類を添えて計画届を事前に提出する必要があります。提出期限は支給対象期間ごとに休業等の初日の前日までですが、初回の届出は休業等の初日の原則2週間前までをめどに準備することが求められます。
コロナ特例期のように計画届は省略されません。「実施してから後で相談する」という感覚では対応できません。休業前の段階で、労使協定・対象者・日程・売上資料などを整理しておく必要があります。
受給にあたって見落としやすい注意点
① 残業相殺は外せない
休業を実施している一方で、別の日に所定外労働や休日労働を行っている場合、その分が助成対象となる休業等の延べ日数から控除されます。「休ませているはずなのに別の日に長時間残業している」という状態は、助成額の減額だけでなく、そもそも休業の必要性に疑問が生じやすくなります。賃金台帳・出勤簿・シフト表・休業実績一覧表の整合性を丁寧に確認しておきましょう。
② 支給額は「コロナ特例」とは大きく異なる
通常制度では、事業主が支払った休業手当等について中小企業3分の2(大企業は2分の1)の助成です。1人1日当たりの上限額も、雇用保険基本手当日額の最高額(8,870円 ※令和7年8月1日時点)に戻っています。確定保険料申告書の賃金総額から算出する方法は廃止され、実際に支払のあった休業手当に応じた額に助成率を掛ける方法に変更されています。事業主が支払った休業手当以上に助成は受けられない点に注意が必要です。
③ 教育訓練は「実態」が問われる
通常業務と区別がつかない内容や、形式だけ整えた研修では後のトラブルにつながりかねません。研修の目的・内容・実施方法・出席状況・教材などを、第三者が見ても訓練の実態が分かるように整備しておく必要があります。受講時に通常業務と切り離せる環境(電話・来客・営業対応をしない等)であることも重要です。
④ 不正受給対応は厳格
不正が認められた場合、返還だけでは済みません。延滞金や一定割合の納付、一定期間の助成金等の不支給、事業主名等の公表、さらには刑事告発の可能性まで視野に入ります。「困ったときに幅広く使える助成金」と考えるのは危険です。
確認ポイント早見表
確認項目 要点
制度の趣旨 損失補填ではなく、休業手当の助成という「雇用維持」の制度
生産指標要件 最近3か月間の売上高・生産量などの月平均値が前年同期比で10%以上低下。月次売上だけで裏付けが取れない場合は生産量・受注件数・稼働日数も確認
雇用量要件 雇用保険被保険者数等が大きく増加していないこと。人員増や派遣受け入れの状況も含めて確認
計画届 休業等の初日の原則2週間前まで(遅くとも前日まで)に事前提出が必須。後追い対応は不可
残業相殺 所定外労働等があると休業等延べ日数から控除。各種帳簿の整合性が重要
助成率・上限 中小企業3分の2・大企業2分の1。上限・支給日数の範囲で支給。特例時より低い点を早めに確認
教育訓練 通常業務と区別できる訓練実態が必要。内容・教材・出席記録・実施記録を整備
※ 本文・表ともに令和8年4月1日現在の通常制度を前提に整理しています。申請にあたっては最新の支給要領・ガイドブック等をご確認ください。
雇用調整助成金は現在でも有効な制度ですが、コロナ特例期とは前提が大きく異なります。一時的な事業縮小が客観的に確認でき、解雇回避のために休業・教育訓練・出向を選択する事業主を支える制度として、通常制度の視点から丁寧に見直していくことが、現場実務ではますます重要になっています。
厚生労働省 公式情報
制度の詳細・支給要領・申請様式は厚生労働省の公式ページをご確認ください。
雇用調整助成金|厚生労働省 →
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