2026年4月、日本経済新聞に退職金と企業年金をめぐる2本の記事が相次いで掲載されました。社説「企業型確定拠出年金の充実を」と、「退職金20年で3割目減り、物価高に勝てず」という報道です。これは大企業だけの問題ではありません。退職金制度のない、あるいは長年見直しをしていない中小企業にこそ、今すぐ考えるべきことが問われています。
01
日経の2本の記事が示した、退職金をめぐる深刻な現実
2026年4月、日本経済新聞に退職金と企業年金に関する注目すべき記事が相次いで掲載されました。ひとつは社説「企業型確定拠出年金の充実を」(4月17日付)。もうひとつは「退職金20年で3割目減り、物価高に勝てず」(4月8日付)です(いずれも有料会員向け記事)。
記事の内容を要約するとこういうことです。物価上昇が続く中、名目上の退職金額が変わっていない会社でも、実質的な価値はこの20年で約3割も目減りしている。賃金は上がり始めているが、退職金は置き去りにされたまま。そして日経の社説は、この問題への処方箋として企業型DCの拡充を明確に求めた、ということです。
これは決して大企業だけの話ではありません。退職金制度のない中小企業、あるいは制度はあっても長年見直しをしていない会社にこそ、今すぐ考えるべき問題が突きつけられています。
02
物価は上がり続けているのに、退職金の「実力」は下がっている
2022年以降、消費者物価の上昇が続き、実質賃金は長期間にわたりマイナスが続きました。足元では賃上げが進んでいるものの、物価の上昇ペースに追いつかない状況が続いています。この問題は現在の給与だけに留まりません。退職金も同様に、物価上昇の波に侵食されています。
具体的なイメージ
20年前に「退職金2,000万円」という水準を定めた会社がそのまま変更していなければ、物価上昇分だけで実質的な受取価値は1,400万円程度に落ち込んでいる計算になります。数字の上では同じ2,000万円でも、買えるものが3割減っているわけです。
従業員側から見れば、「長年勤めた会社から受け取る退職金で老後は安心」という前提が、静かに崩れつつあります。
03
「制度がない」「見直していない」は、今やリスクになる
厚生労働省の調査によれば、退職金制度のない中小企業は少なくありません。また、制度があっても長年見直されていないケースが大半です。
人材採用の競争が激化する中、「退職金・企業年金制度の有無」は求職者が会社を選ぶ基準のひとつになっています。賃上げで応募者を集めても、老後の保障がなければ中長期の定着には結びつきません。
さらに見落とされがちなのが、従業員の「インフレ不安」です。物価が上がり続ける時代に、貯蓄だけでは老後が不安という感覚は、多くの従業員が抱えています。この不安に会社として向き合えるかどうかが、エンゲージメントの差につながります。
採用力の低下
退職金制度のない会社は、同条件なら制度のある会社に見劣りしてしまいます。
早期離職の増加
将来の保障がない会社からは、優秀な人材ほど早い段階で離れていきます。
従業員の不安・不満
インフレが続く中で老後への不安を抱えたまま働く従業員は、集中力もモチベーションも低下します。
04
企業型DCが「解」になる理由
日経の社説が企業型DCの充実を求めた背景には、明確な理由があります。企業型DC(企業型確定拠出年金)は、会社が掛金を拠出し、従業員・役員が自ら運用商品を選んで老後資金を積み立てる制度です。従来の退職金積立と根本的に異なるのは、「運用益が非課税」という点です。
物価上昇に対抗するためには、現金のまま積み立てるのでなく、運用によってお金を増やしていく必要があります。企業型DCでは、株式・債券・投資信託など複数の商品から従業員自身が選択し、非課税のまま長期運用することができます。
また、転職しても積み立てた資産を持ち運べる「ポータビリティ」も大きな特長です。終身雇用が崩れ、転職が当たり前になった時代に、会社をまたいで継続できる老後資産は、従業員にとっても安心感につながります。
会社掛金
全額損金算入
全額損金算入
運用益
非課税
非課税
所得税・住民税
非課税
非課税
社会保険料
算定対象外
算定対象外
転職時も
ポータブル
ポータブル
05
令和8年度の制度改正で、さらに使いやすくなった
企業型DCをめぐっては、2026年(令和8年)に重要な制度改正が相次いでいます。
4月
施行
施行
マッチング拠出の上限撤廃
これまで「会社の掛金以下」という制限がありましたが、この制限がなくなりました。従業員が自分の意思でより多く積み立てられるようになり、老後の自助努力を後押しする仕組みが整いました。ただし、各社の規約変更が必要なため実施時期は会社によって異なります。
12月
施行
施行
拠出限度額の引き上げ(月額5.5万円→6.2万円)
企業型DCの拠出限度額が月額6.2万円に引き上げられます。会社が月1万円を拠出している場合、従業員はその差額の最大5.2万円をマッチング拠出やiDeCoで積み立てられる計算になります。iDeCoの加入可能年齢も70歳未満まで引き上げられます。
制度の使い勝手が格段に向上している今は、企業型DCの新規導入を検討するのに適したタイミングといえます。
06
中小企業でも、役員1名からでも導入できる
「企業型DCは大企業向けの制度」と思われているケースがありますが、これは誤解です。従業員が数名の中小企業でも、また役員だけの一人会社でも導入できます。
会社の掛金は全額損金算入できるため、法人税の節税と従業員の資産形成支援を同時に実現できます。また掛金は社会保険料の標準報酬月額の対象外のため、会社・従業員双方の社会保険料負担を増やさずに給付を上乗せできます。
退職金制度のない会社が企業型DCを新規導入すれば、それ自体が「従業員の老後を会社として支援する」というメッセージになります。賃上げとは異なる次元で、従業員の安心と定着につながる一手です。
07
経営者自身の老後資金としても有効
なお、経営者・役員にとっても企業型DCは有効な手段です。iDeCoの拠出上限は月額2万円(厚生年金加入者で企業型DCなしの場合は2.3万円)ですが、企業型DCは最大月額5.5万円(2026年12月以降は6.2万円)まで全額損金で積み立てることができます。
節税しながら老後資産を形成するという観点では、役員報酬の最適化と組み合わせた総合的な設計が有効です。当事務所では役員報酬最適化プランとの組み合わせ相談も承っています。
08
まずは「現状を整理する」ところから
企業型DCの導入には、会社の従業員構成・既存の退職金制度・社会保険の状況などを踏まえた制度設計が必要です。また、従業員への説明と同意取得、規約整備など、人事・労務の観点からの確認事項もあります。
当事務所(SAS社会保険労務士事務所)は、日本企業型確定拠出年金センターの提携パートナーとして、社労士の立場から企業型DCの導入前相談をお受けしています。まずは「自社の状況で導入できるのか」「費用対効果はどうか」「既存の中退共や養老保険とどう整理するか」といった疑問を、無料でお聞きします。その後、ご希望の方にのみ専任担当者をご紹介します(原則オンライン)。
「社説を読んで気になっていた」「退職金制度を一度見直したい」という方のご相談も歓迎します。
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当事務所は日本企業型確定拠出年金センターの提携パートナーです。
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※本記事は情報提供を目的とするものであり、特定の商品・サービスへの投資を勧誘するものではありません。記事中の日本経済新聞の記事はいずれも有料会員向けの記事です。制度の詳細・個別状況については、専門家にご相談ください。掲載内容は執筆時点(2026年5月)の情報に基づいています。






