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#4:「HRテック」

 昨今、お金の分野では、電子マネーに代表されるような、いわゆる「フィンテック」の台頭が目覚ましいですが、組織や人事という分野でも、最近は、「HRテック」と言われるさまざまなテクノロジー商品・ITツールが登場してきており、大手企業を中心に普及が進んでいるようです。

 

 「HRテック」とは、人事労務の分野でITを活用することで、クラウドやデータ解析、AI(人工知能)技術などを使って、採用、評価、配属などを行う手法を言います。

 

 システム関連の設備投資というと、従来は何億あるいは何十億という費用がかかり、とてもではないですが、中小企業には無縁の世界だったわけですが、「HRテック」系のITツールは、リーズナブルな費用で利用できることから、今後は中小企業にも広まっていくことは間違いないと言われています。個人的にも、業務効率化や生産性向上という課題が解決できる有用なツールとして、積極的にご紹介をしていきたいと思っています。

 

 一方で、こうしたHRテック商品を活用する際に、注意しなければならない点があります。根本的な話になってしまうのですが、まさにこうしたツールが結論を導き出すのに根拠としている、この「テクノロジー=科学」という概念。これをどう捉えるのか。

 皆様はどのように考えられますか?

 

 通常、「科学」と聞くと、私たちが思い浮かべるイメージはその「正しさ」。まさに「科学」という言葉の中に、既に「正しい」というイメージが張り付いているといえます。だからこそ、”これは科学的に~”とか”科学で証明されています”などのフレーズに弱いというか、そのように言われてしまうと何かやり込められてしまうような感じがあります。

 

 では、そもそもこの「科学」=「正しさ」という考え方自体は、果たして正しいといえるのでしょうか。

 

 哲学者カール・ポパーは、「科学」とは常に「反証可能性」を孕むものと定義しました。通常、「科学」というものは、数々の実験や研究、現象を積み上げて、帰納的に何らかの結論を導き出すというプロセスになるわけですが、いくら正しいと思われる結果、つまり「実証」を積み上げたとしても、次はどうなるか分からない、正しくない結果=「反証」となる可能性を常に抱えている、これがまさに「科学」だとしました。ポパーは、これにより、科学と疑似科学を明確に区別したとされています(例えば、「この世に神はいるか」のような問いは、反証のしようがないため、疑似科学とみなすように。)。

 

 このように考えた場合、先ほどの等式「科学」=「正しさ」は成立せず、「科学」≠「正しさ」という不等式が成り立つ、つまりは「科学」とは正しいものでもなんでもないという結論となります。

 

 たとえ1万件、10万件、100万件というデータに基づき、何らかの結論が出ていたとしても、次の1件めはどうなるかは誰にも断定できない・・・。考えてみればその通りで、実際、身の回りで起きた事件や現象など記憶を辿ってみても、犯罪史上例のない・・・とか、統計開始以来初めて・・・とか、未曽有の・・・とか、枚挙にいとまがありません。

 

 これは別に「科学」という世界観を貶めているわけでは決してなく、公然の事実であり、また私たちが「科学」と向き合う中でベースとして押さえておかなければいけない基本概念であるともいえます。もちろん、一流の学者・研究者であれば、こんなことは大前提として日夜研究に勤しみ研鑽しているわけですが、注意すべきは私たち一般人、ついつい科学を妄信しがち、科学という言葉を前にしただけで思考停止になりやすいという特性があることです。

 

 当然ですが、だからHRテックのようなツールは使うのやめましょう、ということではありません。山を登ろうにも、足場が見えない限りはどうにも行動ができないように、人間は、何らかの判断をするには、足掛かりとなる固定点がない限り、どうすることもできません。その意味では、HRテックは、それを一つの固定点と見れば、十分な役割を担ってくれる存在といえます。問題は、その固定点をどう捉えるか、要は、文字通りそれしかないと考えるか、または、そこを俯瞰した上で、敢えて真逆の選択をするのか、あるいは全く異なる第三の選択を視野に入れるのか。

 

 特に、相手にするのは、人の採用や評価、適性、配置といった、いわば答えのない問い、課題です。たとえ何千、何万というデータを統合し、導き出された結論であったとしても、最終的な判断まで、テクノロジーに丸投げすることほど危険なことはないでしょう。

 

 HRテックやITツール、データを活用するにあたり、最も大切なことは、出てきた結果を前にして最終的に経営者・リーダーがどう判断するのか?そしてその判断にあたり、俯瞰した視点から、適切な助言・指導をするのが我々専門家の役割であり、使命であると考えます。

 

(2018-12-20)

 

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(2022-5-13更新)